2005年9月17日

《会社資金》

8月は月商が過去最高を更新する中、その月末に一瞬会社預金が底を突きかける。
ベンチャーには良くある、恐怖の瞬間である。
当社は開業時、私の前職で溜めた100万円を資本金に始めた会社である。開業準備で十数万が飛び、泣かず飛ばずの半年間で更に十数万が消え去った。大きな失敗をしなかったとはいえ、現在のこのビジネスを始めた当初では確か60万円台の資金余力であったはずだ。あの頃から変わっていない一つの事項は「資金の上限までしか成長余力が無い」ということである。
スタッフにはなるべく早く支払いたい(当時は半月毎に締めて締日翌日払い、現在は月末締め翌月10日払い)という、当社の方針は、私を含めてその日暮らしをしていた我々スタッフには外せない条件の一つだった。しかし、クライアントからの支払は30日・60日の後となっていて、その間の数十日は資金繰りを考えなければならない。ここが「資金の上限」までしか受注余力の無い我々小資本のアキレス腱となって今日まで至っている。
信用を積み重ねて、クライアントから仕事をたくさん貰えるようになってくると、「カネが無いので請けられない」というのは何とも残念な機会損失である。
積極的に請けて行き、資金を何とか都合してくるのは経営者たる私の大きな業務となった。苦しい姿を見せてはスタッフもお客様も離れてしまう。創業期から今まで水面下では私だけの闘いがあった。
大口のクライアントの支払が実は滞っていて、進むか手を引くか本気で悩んだこともあった。増資の資金の多くも未来の利益でなんとか埋めた。まさに毎月が限界までの勝負。モノポリーで云えば、「基本はレッドに家3軒オール」である。
そして8月。そう、去年も8月だった。本当に擦り切れるほどの擦れ擦れの勝負。会社の資金と自分個人の資金をギリギリまでつぎ込んで、最高売上を更新していく。そして思う。
「資金の壁さえなければ。」
開業時も、去年の今頃も。そして最近もこの時期には背中に冷ややかな汗を流すと共に、野望に突き動かされる。何件かの金融機関に声を欠け、それでも金融の厚い壁に阻まれる。
確かにベンチャー用の基金は創設された。昔に比べればきっと貸し渋りも少ないのだろう。だがそれでも思う。金融業会はアンフェアだ。彼らは結局事業を見ていない。無担保・無保証人を謳っている公共の創業者基金でさえ、最後の最後に来て「やはり第三者の保証人さんを立ててもらわないと」という話になる。
私は、創業者の代表経営者が会社の連帯保証人になるのは仕方が無いと思う。当社もそうであるが、創業期の会社であれば創業者の資金と会社の資金の垣根は非常に低い。当社のように個人資金を会社に全部突っ込むところもあれば、会社は赤字にして経営者だけ肥え太っているところもあろう。だから小規模であれば個人事業主とそうそう変わらないともいえる。
しかし、今でも金融機関が、包括根保障や第三者連帯保証を求めてくるのは、明らかに貸し手の怠慢であり足元を見た卑劣な融資であると私は考える。非道な包括根保障については今年から法的な保護ができてきたとはいえ、今回金融機関を回ってみて、根保証主義は変わっていないことを痛切に感じた。公庫ですら第三者に連帯保証人を立てさせるという審査無能力ぶりを未だに直そうとしていない。
私は実質包括根保証であれば会社の保証人になりたくないし、ましてや代表者である私以外の連帯保証人をつけてまで資金を借りようと思わない。気楽に「お父様かお母様に・・」と云ってくる融資担当者こそ恥を知ってほしい。私は自分とは関わりのない連帯保証人になるつもりは無いし、身内を含む誰かを連帯保証人に立てるつもりも無い。
私が望むのは、金融機関には、与信は貸出上限と利率で評価して欲しいという事だ。今回までの感覚では、私の回った金融機関から当社は評価されなかったが、私も金融機関を評価できなかった。しばらく当社の無借金経営は続きそうである。
さて、当社の資金余力は、およそ2年で60万強から450万。利益の積み上げでもこのペースを守るなら何とでもなる。しかし結果こそ上手くいかなかったものの、今回はどうしてもタネ金としての借入をしたいと思っていた。ここに書こうか悩んだが、当社のステークホルダーには知っておいて貰う必要があるだろう。
当社はおよそ1割から2割の金額を利益として一つの案件から抜いている。そしてその積み上げた利益で人を雇い、仕事を請け、拡大再生産している会社である。常に限界にチャレンジしているが、売上は当然月ごとに波があり、8月のように会社の余力を超えてしまうこともある。そうした場合、常に最大唯一の貸し手である、私の個人マネーを一時的に充当して資金不足を乗り切ってきた。そうやってなんとかここまで来れたのだが、この個人マネーを投入する自由度が今期以降著しく減ってしまう事になった。
原因は私のプライベートに起因している。
この出来事自体はめでたい事であるし、私人としてはタイミングも妥当で判断として間違っていないと思っているが、企業人としてはどんな理由があろうともここでの足踏みするというのは本当に残念である。残念だと思う。あと2年あれば。せめて1000万の余力を達成していれば。今回なんとかして、数百万の資金を借りる事ができれていれば。
しかし。残念ながら、一つの結論はでた。当社の資金需要に応えてくれるところは私を含め殆ど無くなる。私もこれからはどんぶりな資金繰りやギリギリの舵取りというものを赦されなくなる。良くも悪くも「変化」である。