表題は、今まで私の聞いた名言の中で最も好きになれないセリフである。
彼は、会社から給料をもらい、会社の資金や設備を使い、会社の販路を使って大ヒットした商品の開発者である。最近では、「日本の司法システムは腐っています。」のコメントで人間性の破綻を日本中にさらした人物でもある。どれほどすばらしい功績を残した科学者であっても、彼のような人間を教授にする大学も彼を尊敬する学生も、私は心底軽蔑している。
私自身は、技術者としての側面もあり、スペシャリストが管理者より低い評価しか受けない日本の人事制度に反感を持つ人間の一人である。しかしながら売上が発生するまでの全てを自分の手だけで実現できると本当に思っているのならば、会社組織などに属せずに一人で開発して売り込んで見ればいい。バックボーン無しでこれが可能であるならば、このセリフを云う資格もあるだろう。
一方、実際に彼の発明した商品自体はすばらしい。このプロダクツを評価する視点は彼の人格とは別でなければならない。そして、彼のその功績に対しては十分に評価しなくてはならないとも思う。彼の所属していた元会社もその点ではやはり全く洗練していなかった。どちらも未熟である事は本当に残念である。製品自体も未熟に思われてしまえば、誰のためにもならない。
しかし、彼の様な人間に自由に開発させる会社というのも管理体制などで大いに問題があると思わざるを得ない。残念な事だ。

2005年2月2日

《源氏物語》

源氏物語には、「雲隠」という巻がある。
源氏物語の最も優れている作風はこの巻にあると私は思う。
桐壺から始まって源氏の華やいだ世界が永遠と続き、そして「雲隠」の巻を境にして宇治十条に入る。なんとこの巻はタイトルのみで本文が無い。その前の「幻」で紫の上を亡くした源氏の悲哀がかかれ、そして次の「匂宮」では8年の隔たりのみがあり、もはや源氏は過去の人となっている。
源氏の生死には触れず、後の人々の生活を何事も無かったかのように描く事により、この「雲隠」の意味が否応も無く重くなるのだ。
受験した頃以来久しぶりに読んだが、確かに面白い。名作である。

月末月始にまたがって、夜勤をするのは初めての経験である。
毎月この時期は、色々な事務処理が重なるために現場に出るのは出来るだけ避けたいのだが、実際に仕事が集中するのはこの時期でもある。いつまでも消えないであろうジレンマの一つだ。
私には、人にはあまり見せたくない「絶対に退けない」部分がたくさんある。時にそれは他人から見ると本当にくだらない事に映るとも自覚している。しかしながら、この退けない部分というものが、起業家になろうとする人に共通する激しいサガみたいなものでもあると思う。
だからこそ、それ以外の部分では自分から一歩下がる様に心がける。何もかも最前線で何もかも退かず頑張っているようでは、「交渉」というものは成立しない。退いてみて初めてより広い視野で新しい発想で、物事に取り組む事が出来る。歩み寄る事が出来る。新しいトレンドに乗る事が出来る。
そして、我々のような小さな企業では、大きな企業の「絶対に退けない」分野で一歩下がって仕事をもらう。こうして力をためる第一歩を刻む事が出来るのだ。
一時の撤退は敗北を意味しない。目的を達成し、退くべき時に退けるものだけが名将と云えるのだ。